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第九章 第三節
不幸中の不幸

 玲陽は、あれこれと食材や日用品を買いに、都の市場を回っていた。

 はじめの頃は、その特殊な容姿のために、都の者たちも驚いて警戒したが、今はすっかり慣れて、逆に『歌仙親王の弟君(ていくん)』として、人々に好かれている。

 外見は異色ではあるが、その物腰は優雅で見目も良い。喧嘩やいさかいの仲裁にも、臆せずに入って民たちを助ける腕の立つ剣士であり知識人、その上、誰にでも親切に接する玲陽は、今では都ですっかり人気者である。

 そうなると、心穏やかではいられないのが、犀星だ。

 とにかく、玲陽の身に何かあっては、と、日夜、落ち着かない。

 五亨庵にいる間は良いとして、仕事帰りには、必ず玲陽と共に宮中を出た。

 休日も、決して一人歩きはさせまい、と、自分が動けない時は、東雨を一緒に行かせた。

 その過保護ぶりは日に日に酷くなるようで、さすがの玲陽も、それが原因で犀星と衝突することが増えてきている。

「私だって、一人で買い物くらいできるのに……」

 今も、籠を手に、食材を見て回りながら、玲陽はため息をついていた。

 時は戻り、数刻前。

「兄様、熱があるんでしょう? 最近働き詰めで、疲れが出たんです。おとなしく、寝ていて下さい」

「こんなの、何でもない」

 寝室の長椅子で休んでいた犀星は、出かけようと支度を済ませた玲陽に、遅れまいと立ち上がった。

「だめです。ふらついているじゃないですか。そんな状態で、近衛も無しに出歩いたら、また、涼景様に叱られますよ」

「お前だって、自分の立場ってものを考えろ。俺と大して変わらないだろ」

「変わります。私はただの臣下ですから。だいたい、兄様は、何をそんなに心配しているんですか? 私が市場に行くだけで、そんなに大袈裟に……」

 玲陽の問いに、犀星は大真面目で、

「全てだ。詐欺に合うかもしれないし、暴漢に襲われるかもしれない。お前のように美しい者が一人でいれば、よからぬ奴らが手を出してきてもおかしくない。まして、俺の弟だと知っているなら、俺を強請るために、お前を誘拐するかもしれない。または、男女問わず、恋心など抱く者が現れて……」

「あの、ですね」

 玲陽は、努めて冷静に、

「確かに、兄様がおっしゃったような可能性は皆無ではありません。けれど、私もそこまで非力ではありません」

「お前の腕前は認める。真っ向勝負なら、誰にもひけをとるものではない。だが、不意を突かれたら……」

「ですから、用心すると言っているじゃありませんか」

「いくら備えたところで、事故は起こる。お前を信じていないわけじゃない。だが、俺のそばにいろ。一人になるな」

「私は、兄様の役に立ちたくて、たくさんのことを身につけてきたんです。東雨どのや、緑権どのと同じように使って下さい」

「できるわけがないだろ。お前は俺の……心配なんだよ!」

「そんなに心配なら、私を閉じ込めたらどうです!」

 我慢も限界で、玲陽は思わず怒鳴った。

「あの砦のように、誰も近づけない場所に閉じ込めて、毎晩手篭めにすればいい!」

「!」

 サッと犀星の顔色が変わる。

「お前……」

 嘆きとも怒りともつかない感情の滲む犀星を、玲陽は睨みつけた。

「兄様なんか、大嫌いです!」

 叫んで、玲陽は屋敷を飛び出してきたのである……

「どうして、あんなに……」

 玲陽は、夕食の食材を選びながら、心の中でモヤモヤと晴れない感情と戦っていた。

 犀星が、自分を大切に思ってくれていることは、痛いほどわかるのだ。

 だが、それにも限度があるだろう、とも思う。

 小さな娘でさえ、親の手伝いで市場に出てくるというのに、なぜ、自分は許されないのか。

『お前は自分の立場がわかっていない』と、犀星は庶民と親しく話をする玲陽に釘を刺したことがある。

「立場、かぁ」

 歌仙の砦にいた頃は、今より不自由な生活はないと思っていた。

 だが、都に来てからは、見えない壁が、自分を取り囲んでいるように感じる。

 確かに、歌仙親王の身内である以上、民草から見れば、特別な存在であり、同等ではない。

 子供の頃から、周囲の使用人とばかり関わっていた玲陽には、跡取りだの、親王だの、貴人だの、という肩書きの重さはわからない。頭でわかるのと、実感するのは別である。

「あ……」

 浮かない顔をしていた玲陽の頬が、ふっと緩んだ。見世だなの一角に、籠に積まれた苺を見つけたのだ。

「兄様、好きなんですよね……」

 思わず呟いてから、打ち消すように首を振る。

 自分は今、犀星に腹を立てているのだ。でも……

 子供時代、歌仙の山で野苺を摘んだっけ……

 胸の奥が熱くなる。

 あの頃の自分達には戻れない。

 身分や立場に縛られて、当時とは違う危険に晒されて……

 その精神的な負担に、疲れていたのだろう。

 だからといって、それは、犀星に当たり散らすことではなかった。しかも、あの、砦のことまで持ち出して……

 玲陽は、自分が勢いで口走ったことを思い出し、激しく後悔した。

 あれではまるで、犀星を、自分を弄んだ男たちと同等に言ったも同じではないか。

 だから、犀星はあんな顔をしたんだ……怒りと悔しさで、心が破れてしまいそうな、あんな辛そうな顔をさせてしまった……

 数日前、東雨から渡された犀星の手紙の文面を思い出す。

 何気ない日常を、丁寧に自分にあてて書き続けてくれた人だ。

 まるで、一緒に暮らしているかのように、自分が見聞きしたもの、感じたことを、玲陽に伝えてくれていた。

 それを読めば、たとえどれほど離れていようとも、すぐそばに犀星を感じることができるように。

 それも、わずかな時間の話ではない。

 犀星は自分と離れていた十年間の間、毎日欠かさず、手紙を書き続けていた。

 返事すら来ない、読んでいるかもわからない手紙を、変わらない愛情で送り続けてくれた。

 全身が、その深い想いに熱く火照る。

 そういう人なのだ。

 犀星とは、静かに激しく、自分へ愛情を向けてくれる人だ。

「私、最低……」

 玲陽は、低く呟いた。

 視界の隅に、鮮やかな苺の色が映る。

「こんなんじゃ、許してもらえないだろうけど……」

 玲陽は一包み、苺を買うと、丁寧に籠に入れた。

 なんだかんだと迷いながら市中を歩き回るうちに、予定していた買い物は、全て終わってしまった。家に戻るしかない。

 どんな顔で帰ればいいのだろう。

 短気を起こした自分が、申し訳なくてたまらない。

 東雨は今日、利巧と共に宮中の見回りで夜勤に行っているはずだ。

 二人きり、か……

 本当なら、何の気兼ねもなく、存分に甘えられるのに、今は心が重たかった。

 真っ直ぐ家に帰ることもできず、玲陽は都の水路に足を向けた。

 自然の川ではないが、それでも水の流れる音は、心を落ち着けてくれる。

 この水路は、犀星が都に来てはじめに取り組んだ事業の一つだった。

 治水がどれだけ重要か、それは田舎の野山育ちの犀星には、よくわかっていた。

 水を治める者は平穏を手にする。

 汚水の処理もろくにされていなかった都の隅々まで、犀星は丁寧に水路をひき、衛生面と水の利用、水運の改善を現実にした。また、大雨や台風の際には、その氾濫を考慮して、都の外にさらに水門を設け、天然の川との接続や治水池の整備も行っている。

 水路脇の石段に腰を下ろして、玲陽はぼんやりと水面を眺めていた。

 この、石段を設けた水路の河川敷も、水害対策と人々の憩いの場の両方を目的に造られたものだ。

 手紙にも、当時のことが断片的に記されていた。自分と離れている間も、犀星は人々のために、考えうる限りのことに手を尽くしてきたのである。

 こうして自分が都の民に受け入れてもらえたのも、『歌仙親王』に対する民衆の信頼があってこそ、ではないか。

 それほどの人が、自分を気遣い、重く感じるほどに愛を注いでくれる。

 たった一人、自分のためだけに、必死になってくれる。

 きっと、それが無ければ無いで、自分は不安になるのだ。どこまでも、犀星に甘えていることに、玲陽は情けない思いと、思慕とが募る。

「兄様……会いたい」

 すぐに会えるはずなのに、こんなに恋焦がれてやまないというのに、帰ることをためらってしまう、もどかしさ。

 この冬は、あまりに長かった。

 犀星も玲陽も、多くのことに翻弄され、押し寄せる出来事にもみくちゃにされて、精魂尽きた感じがする。

 幸い、自分の健康状態だけは回復したが、それで解決できることはわずかだった。

「何だい、兄さん、この世の終わりみたいな顔してさ?」

 突如、聞き覚えのない声が、玲陽の上に降ってくる。

 迂闊!

 すっかり背後に立たれていたことに、気づかなかった。

 これでは、犀星に止められても仕方がない。

 玲陽は恐る恐る振り返った。

 派手な化粧に、飾り立てて結った髪、着崩した着物は肩まで露出して、足下も腿が覗くほどにはだけている。

 玲陽は初めて、間近で娼婦を見た。

 だが、どこか、雰囲気が違う。

「あれ、随分綺麗な兄さんじゃないの」

 女言葉だが、男だ。

 ゾッと、玲陽は肌が泡だった。

 嫌悪感。

 それは、目の前のこの見ず知らずの男娼のせいではない。

 その存在と、かつての自分が重なったためだ。

 一見、美しいが、どこかに毒のある、そんな目で、彼は自分を見下ろしている。

「あちきは銀是(ぎんぜ)。本名は忘れちまったけどねぇ」

…………」

 玲陽はどう答えて良いかわからなかった。

 悪人には見えないが、自分が今、話をしたい相手ではない。

 過去の心の傷が、えぐられていくように思われる。

 銀是は黙り込んでいる玲陽の隣に立つと、川面を見た。

「いいよねぇ、水は。黙っていたって、どこかへ行ける」

「え?」

「あちきらは、縛られたまんま」

 袖をひょい、と腕に絡めて、

「帯を解かれるのは、抱かれる時だけさね」

「あ、あの……」

 玲陽は買い物かごを両腕で抱えた。

「私、もう、行きます」

「待ちなよ」

 振り切ればいいのに、思わず、玲陽は立ち止まった。

「兄さん、大丈夫かい? 今にも、水路に身を投げそうな顔、してるよ」

……私は……」

「はぁ」

 気だるそうに、銀是は息をつくと、懐から一服を取り出して、深く吸い込んだ。

 煙の匂いが、風に乗って玲陽まで届く。

「兄さんも、男にひさいできたんだねぇ」

「!」

 玲陽は素早く振り返った。

 銀是が横目でこちらを見る。

「あら、当たり?」

「ど、どうして……」

「匂い、っていうのかねぇ。同じ匂いがするのさ。不幸の中の不幸にまで落ち込んだ、糞の匂いが」

「…………」

「死んだって終わりじゃないさ。あちきらみたいなのは、一生、抜け出せないんだよ」

 銀是を、玲陽は美しいと思った。

 彼の目は、全てそのままに、現実を見ている。

 夢など追わず、今を必死に生きている。

 どんな姿でも、何を生業としようとも、そこから逃げることなく、生き続けている。

 自分のように、過去を恥じて、忘れようと足掻いてはいない。全てを達観したその潔さは、玲陽には羨ましかった。

「兄さん、今の所が嫌なら、うちの店、来ないかい? 兄さんくらいの上玉なら、いくらでも稼げるさ」

…………」

 どうやら、自分を同業者だと思っているらしい。玲陽は静かに籠を足下に置くと、帯を緩めた。

「ちょいと!」

 銀是が驚いて玲陽を見る。だが、銀是の驚きは、それでは済まなかった。

 玲陽は、上半身の無数の傷跡を、傾きかけた夕日に晒した。削ぎ落とされた肉の跡、いびつに歪んだ左右の脇腹、切り裂かれて、何度も痛めつけられた臍の傷、噛みちぎられた乳首、無数の火傷と、ただれて赤らんだ皮膚……

 その、あまりに凄惨さに、銀是も顔を歪めた。

「この身体でも、客が取れますか?」

 玲陽は、彼のものとは思えない、冷たい声で言った。

「後孔も傷ついて塞がって、指一本入れるのがやっとです。次に私を抱く者は、私を殺すことになる」

 玲陽は銀是に背中を向け、着物を直した。その一瞬、一陣の風が吹き、玲陽の髪が大きく揺れて、背中の焼き印が銀是の目に止まる。

「あんた!」

 着物を直し、荷物を抱えて立ち去ろうとした玲陽を、銀是が回り込んで止める。

「まだ、何か?」

 玲陽は、銀是から目を逸らした。真っ直ぐに生きている銀是を見ると、ますます、自分が惨めに思えた。

「見ちまって悪いけど…… あんた、その背中の印……」

「……ああ、自分では見えませんけど、つけられているとは、聞いています。どうでもいいですけれど……」

 玲陽は籠ごと、自分を抱きしめるように、歩き出した。

「待ちなよ! あんた、『若君』を知ってるんじゃ……」

「……『若君』……?」

 玲陽は再び、立ち止まった。

 最も忘れたかった、悪夢の始まりの日が蘇る。

 確か、初めて自分を抱いた男が、兄たちにそう呼ばれていた。

 記憶はおぼろげで、ほとんど残っていない。

 あの頃はまだ体力があり、抵抗すると危険だから、と、薬で意識を失わされ、無理やりに犯された。背中に押し当てられた火傷の痛みで正気を取り戻した時には、自分の身体はもう、手が付けられない程に汚され、傷つけられていた……

「その人を、知っているんですか?」

 玲陽は振り返ることなく、背後の銀是に問うた。

 もし、どこの誰なのかがわかれば、ただではおかない。

 自分を弄んだ全ての男に復讐することなどできなくても、最初の一人、犀星に捧げると誓っていた操を奪った相手だけは、傀儡に憑かれようと、殺してやる!

「……直接、会ったことはないがね」

 銀是は、玲陽の放つ殺気に、明らかに臆した。

「どこかの御曹司で、男女を問わず、自分が気に入った相手には、その焼き印を押すやつがいるって……印をつけられた相手に手を出せば、そいつの部下に殺される……だから、他の客は怖がって近づかなくなる……でも、そいつが来るのは一回きりだ。結局、食い扶持も稼げなくて、身投げだの首吊りだの、死ぬしかない……」

「その人は、まだ都にいるんですか?」

「……さぁ、ここしばらく話は聞かないが……月に何人も死ぬからねぇ」

 玲陽は、首だけ、銀是を振り向いた。

「私は犀光理。歌仙親王の臣子です。もし、何かその人の情報があれば、知らせてください。お礼はします」

「あ、ああ」

 銀是は目をそむけた。それほど、玲陽の目は、冴えて、今にも自分を切り捨てるかのように狂気をはらんでいた。

「あ、あんた、馬鹿なこと、考えるんじゃないよ!」

 その場を離れる玲陽に、後ろから、銀是が叫ぶ。

「大丈夫かね、あの兄さん。ありゃ、人間の目じゃないよ」

 呟いた銀是の声は、水と風の音に散らされ、誰の耳にも届かなかった。

 結局、玲陽はそのまま、屋敷に戻った。

 あれだけのことを言ってしまったのだ。

 犀星に殴られるくらいの覚悟は必要だろう。

「今、帰りました」

 玲陽は厨房で食材を整理し、最後に残った苺の包みを、どうしたものか、と眺めた。

 今、犀星に持って行っても、喜んではくれないだろう。まずはしっかりと謝ってからだ。

 いや、それより先に、自分にまとわりついている、憎悪の傀儡をどうにかしなくては……

 銀是の話を聞いてから、有象無象の者たちが、自分の肩や背中に張り付いている。

 こんな姿で、犀星には会えない。彼には傀儡は見えないが、声は聞こえる。

 何より、傀儡を喰らう立場にあり、浄化する運命を持った自分が、自ら憎しみに駆られて引き寄せてしまっては、元も子もない。

 本当に、何もかも、情けない……

 玲陽は厨房の隅に座り込んだ。

 誰かに取り憑いた傀儡を払うことはできても、こうしてただ、そこにいるだけのものには、何もできない。

 新月の夜の浄化の結界は、その時にしか使うことはできない。

 これ、どうしよう……

 玲陽は、頭を抱えた。

 遠ざける方法はある。玲陽が、その心から、憎悪を捨て去ればよい。そうすれば、憎しみを抱く別の者の元へと、離れていくだろう。

 だが、銀是が語った焼き印と男の話を、冷静に、感情を殺して整理するのは、食材を片付けるほど、簡単ではない。

「どうしたら……」

 こんなとき、どうしても心に浮かぶのは、犀星のことだ。

 理由も根拠も方策も何もない。

 それでも、犀星に会えたら……彼に何もかも話せたら、楽になれるかもしれない。いや、楽になれる。

「まずは、謝らなくては……」

 玲陽は立ち上がると、覚悟を決めて、部屋に上がった。

 犀星が言うほど、自分は頼りない人間ではないつもりだが、自分が思うほど、強くもないのだと、思い知った。

 たとえ、同じことが起きていたとしても、犀星がそばにいれば、自分はここまで心を乱すことはなかっただろう。

 結局、兄様の言う通りじゃないか。

 玲陽は観念した。

「……兄様?」

 遠慮がちに声をかける。だが、屋敷の中は、しん、と静まったままで、返事がない。

 ズキン、と左の脇腹に、刀で刺されたような痛みが走る。

 玲陽は一瞬、息を止めた。

 胸騒ぎがする。

「兄様!」

 次第と早足に、大声になりながら、玲陽は屋敷中を駆け回った。

「兄様! どちらです!」

 返事どころか、物音ひとつしない。

「出てきて下さい! 私が悪かったです。だから、隠れてないで、出てきて下さい!」

 泣きそうになりながら、玲陽は必死に叫んだ。だが、どこにも、犀星の姿はない。

「そんな……」

 まさか、何かあった? 

「兄様!」

 虚しく反響する、自分の声。

「星! お願い!」

 どんなに呼んでも、返事はないままだ。

 玄関にも、裏口にも、犀星の靴が残されていた。出かけてはいないはず……ならば、どこかに……

 何度も同じ部屋を探した。それでも、犀星の姿はどこにもない。

 幾度目かに、自分達の寝室の寝台に目を向けた時、玲陽は全身が凍りついた。

 恐る恐る、近づく。

 わずかだが、寝台と壁との間に不自然な隙間がある。そのように寝台をずらした覚えはない。

 壁に、数滴、血痕があった。

「嘘……」

 隙間を覗き込んで、玲陽は悲鳴をあげた。

 血の気のない犀星が、腹に匕首を刺したまま、体を縮めてうずくまっていた。

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